日本の心の香り~花の咲く木々~

2023.03.23 Thu

 

「東風吹かば匂ひおこせよ梅の花

あるじなしとて春な忘れそ」

 

菅原道真が詠んだ歌として有名ですね。

 

棲家を離れなければならなくなった際に名残惜しさとともに詠まれた歌で、

庭の梅の木へ向けて、

自分が居なくなっても春になったらまた花を咲かせて、春の風に乗せて香りを届けてほしいという想いが込められています。

 

今にも梅の香が風に運ばれてきそうな心地になる、とても好きな歌です。

 

道真が生きたのは平安時代の日本ですが、

いつの世も植物の香りというものは、

土地の空気とその時の心の動きとともに記憶に刻まれてきたのだということがよく分かる歌だと思います。

 

そして春は日本人にとって出会いと別れの季節。

 

日本の春の香りは、様々なドラマとともに思い起こされる香りといえるかもしれません。

今回はそんな「日本の心の香り」についてお話してみたいと思います。

 

 

梅の花の香り

 

 

 

 

 

 

元々、日本の花といえば梅の花だったと言えるかもしれません。

梅の木が中国大陸から日本に伝来した時期には諸説あるようですが、日本最古の歌集『万葉集』にも梅を愛でる和歌が多く登場します。

 

樹齢が長く長寿のシンボルでもある梅の木は、何百年という時を生き、時に神格化されながら、枝や幹が曲がりくねった姿で大切に祀られていますね。

梅を愛でるお祭りも、各地で伝統的に行われています。

 

美しい姿と良い香りー実もつける梅の木は、庭木としても日本人に愛されてきました。

春の訪れを感じる高揚感とともに、どこか懐かしさを覚えるような梅の甘い香りは、日本の心の原点なのかもしれません。

 

 

 

 

桃の花の香り

 

 

 

 

桃もまた、日本で愛でられてきた春の花の1つですね。

桃の歴史はさらに古く、古事記や日本書紀にも登場するそうです。

桃源郷※という言葉もあるように、桃の木もまた、その実や葉の薬効などから不老長寿や魔除けの力を秘めた木として大切にされてきました。

 

そんな桃の咲く季節にあやかり、女の子の健やかな成長を願う「桃の節句」=雛祭りには、

ひな飾りに愛らしい桃の一枝が花を添えます。

 

桃は、葉や花の香りよりも、その実の甘い香りをイメージする方がほとんどでしょう。

実際に、花枝から感じられる甘みのある香りは、ごくほのかです。

それでも桃の愛らしい花を見つけると、甘い香気が漂ってくるように感じるのは私だけでしょうか。

 

 

※平和で豊かな理想郷やユートピアのような場所を表す言葉。

 

 

そして、桜の香り

 

 

 

 

 

いまや日本人の心の花といえば、桜と言っていいでしょう。

桜も日本固有の植物ではありませんが、古くから日本の土地に根づいていて、

気候風土に合わせて田畑を耕し、作物を育てる人々の暮らしの風景の中に、当たり前に溶け込んでいたようです。

 

その美しい姿は古来、やはり神になぞらえられながらも、その花の儚さに有限の美を見出だし、日本の人々がすぐ傍に在ったその魅力に気づいたのは、まだほんの数百年の間でのことのようです。

 

 

いつしか桜は日本の春の代名詞となり、卒業と入学の門出には必ず桜が花を添え、

多くの日本人の人生の節目には、その記憶とともに春の空気と桜花の彩りが刻まれるようになりました。

 

 

 

 

梅、桃、桜の香り

 

日本人の人生の一幕に寄り添い飾る、三種の花の咲く木。

香りはどんなイメージですか?

どれもほのかな甘みとともにイメージされるのではないでしょうか?

 

梅や桃は、その実のイメージもあいまって、果実みのある甘い香りを想像されるかもしれません。

桜は、桜餅の葉の香り。

塩漬けにした葉や花の風味から、鼻に抜ける爽やかな甘さでしょうか。

 

 

実は、梅、桃、桜の香りは、アロマセラピーで扱う精油のラインナップの中に、なかなか加わってくれません。

満開の姿を思い起こすと心に描かれる、この花々の甘さや爽やかさ。

その香りを100%ピュアな天然精油として手にすることはないでしょう。

 

採取できる精油量が微量であることや既存の抽出法の技術的な面など、その理由は様々ですが、この花々の香りはなかなか抽出できないのです。

 

 

 

「心で感じる香り」

 

それでも、私たちは、「梅の香り」「桃の香り」「桜の香り」を知っています。

 

春、日本には、これらの香りを謳うフレグランスアイテムが溢れています。

 

その中には、本物の香りに近い香りもあれば、飛躍的にアレンジされたユニークな香りもありますが、

それはどれも、私たちがこれらの花に触れた瞬間に、「心で感じる香り」に他なりません。

 

 

 

その花のカラー、花や枝の形、全体的な存在感と、

その場面で自分が感じていた空気感や思いが重なりあって膨らんだ、香りのイマジネーション。

 

どれもその花の魅力を表す香りとしては「正解」であり、

微量に採取された本物の香りがあったとして、果たしてそちらが「正解」かどうかは、もはや分かりません!

 

 

 

 

 

 

香りは脳に信号として直接届くため、記憶とも結びつきやすい性質を持ちますが、

「イメージした香り」もまた、記憶とともに心に残されていくのかもしれませんね。

 

 

もちろん、香りの源流やイメージについても色々な見方ができますし、

香りが化学成分として心にどんなふうに影響するかはこれまでも色々お話してきたのですが…

 

 

その前に、「香りは心で自由に感じられるもの」だということを、

この花たちの季節が来るたびに教えられる気がします。

 

 

 

 

最後に、私自身の桜の「イメージの香り」のレシピを添えて。

 

*桜咲く季節のアロマブレンド*

 

イランイラン精油 1滴

ローズ精油 1滴

ベンゾイン精油 1滴

ホーウッド精油 1滴

クラリセージ精油 1滴

 

 

※ローズやイランイランの精油には、香りの抽出方法や製造方法、グレード等により様々なものがあります。それにより香りにも違いが出ますので、お好みのものを見つけてみてください。

※ベンゾイン精油は粘度が高いため、アルコール等で希釈されているものもあります。アルコールに敏感な体質の方等、ご利用前に内容をお確かめのうえ、適切にご利用ください。

 

 

 

 

 

 

季節を感じて心から安らぎたい時間には、

アロマライトなどの芳香器で”春をイメージした香り”をお部屋に拡げて楽しんでみてくださいね♪

 

 

 


\この記事を書いた人/

大塚麻子

オーダーメイドトリートメントを提供する『Aroma Berta』主宰
英国IFPA認定・国際プロフェッショナルアロマセラピスト
日本心理学会認定心理士

自然の恵みアロマとハーブの魅力と、毎日を心地よく過ごすための利用法をわかりやすくお伝えしていきます♪



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